昨日に引き続き、『キャリアデザイン入門[Ⅰ]基礎力編』を読んでいて思ったこと。今回は「対人能力」について、この本の内容から思ったことを紹介します。それは、対人能力の基本はこれまでの学校教育の中で学んできているということです。
社会人が身につけておくべき基礎力(仕事のスキル以外の部分)をこの本の著者、大久保氏は、「対人能力」「対自己能力」「対課題能力」「処理力・思考力」「仕事に向かう態度」に大きく分けています。
社会で生きていく上で、対人能力が大切なのは、おそらく中学生でもわかるのではないでしょうか。私は、幼少期から「対人能力」があまり十分でない人生を送ってきたので、よくわかります(笑)
対人能力の学びはいつから始まるの
対人能力の学習は、生まれてから数か月すると始まります。母親をはじめ、父親、兄妹といった家族との関係はすべての人間関係の基礎をつくるといわれています。やがて、幼稚園や保育園に入ると、友達との人間関係や集団での人間関係を学び始めますよね。
多くの子どもが、遊びの集団に入りたいときにこういうのではないでしょうか。
「仲間にい~れて!」「いーいよ!」
大人からすると、ずいぶん単純ですが、これが誰かと仲良くなる第一歩であることは間違いないと思います。もう少し成長すると、そこに趣味が合う・合わないとか、その人といて楽しいか、といった利害関係などがはいってきます。
社会人の対人能力とは
大久保氏は、社会人が仕事をするうえで求められる、対人能力を「親和力」「協働力」「統率力」にわけて説明しています。
- 親和力・・・「他者との豊かな関係を築く」
- 「親しみやすい」「気配り」
- 「対人興味」「共感・受容」「多様性理解」
- 「人脈形成」「信頼構築」
- 協働力・・・「目標に向けて協力的に仕事を進める」
- 「役割理解」「連携行動」
- 「情報共有」「相互支援」
- 「相談、指導」「他者の動機づけ」
- 統率力・・・「場をよみ、組織を動かす」
- 「意見に耳を傾ける」「意見を主張する」
- 「建設的・創造的な討議」
- 「意見の調整、交渉、説得」
(p.126ページの表から、抜粋して引用。番号付けは筆者による。)
これを見ていて、気が付いたのはそれぞれの対人能力の分類が、ステップ別になっているということです。実際、「親和力」については、大久保氏も段階順に書いているとしています。「協働力」「統率力」も、1~3になるにつれて高度になっているといないでしょうか。
学校教育で学ぶコミュニケーション
もう一つ気が付いたことがあります。それは、それぞれの能力がすべて小学校(それ以前)から学んできたことであるということです。
例えば、親和力の小項目1.「親しみやすい」「気配り」は、幼稚園でも学んでいないでしょうか? 気軽に声をかけ、明るく返事をすることは、幼稚園で教わった気がします。ほかの子どもたちの行動からも学びましたし、先生からそう教唆された記憶があります。
小学校の中学年くらいになると、自分と違う人と“仲良く”することの大切さを道徳の授業などを通して習いました。小学校の道徳の教科書では、障害を持つ人への配慮や困っている人を助けることの大切さが、ものがたり形式で語られています。
協働力の小項目の「役割理解」「連携行動」も、小学校教育で教わります。みなさんも総合的な学習の時間やホームルーム(学級活動)などで、「班別行動」や「係りの分担」「給食/掃除当番」などを通じて学んできたのではないでしょうか。班(グループ)の中で、リーダー(班長)や副班長などの役割を決めて、協力をして共通のタスクをなしとげました。小学校で学ぶこうした役割分担は、「役割理解」「提携行動」の基礎といえるでしょう。
そして、中学校から始まる部活では、後輩の立場では上下関係も学びますし、先輩になると後輩を指導することもあるでしょう。また、挫折したチームメートをはげますこともあるかもしれませんね。「相談、指導」「他者の動機付け」の基本なのです。
統率力に分類されている、「意見に耳を傾ける」「意見を主張する」「建設的・創造的な討議」といったことも、小中学校での総合学習や国語の授業などで学習する「議論」や「ディベート」で経験していると思います。この本の中で、大久保氏は「議論をする際は他者の意見を踏まえたうえで発言をすることが大切(趣旨)」と述べています。このことの基本も、小学校時代に学んだ覚えがあります。例えば、次のような発言のしかたを習いませんでしたか?
(誰かが意見を言った後に、手を挙げて、指名されて) 「○○君の意見に、賛成(反対)です! ~~~(理由)~~~だからです。」
大人になって、このままの形で使えるわけではないですが、会議などで発言する際には、人の意見に賛成(反対)することも大切なことです(少なくとも、発言しないよりはましなのではないでしょうか)。そして、もう少し議論の作法がわかってくると、次のような発言をするようになります。
「○○君の意見の~~~という部分には同意します。 しかし、~~~するともっと良くなると私は思います」
本当に、そう思っているかどうかは別として、前の人の発言を尊重するという心がけは大切なことだと思います。前の人(複数の場合もある)の発言を全く踏まえず、自分の意見だけを主張するのはよくないことなのではないでしょうか。
これまで書いてきたように、(仕事をするうえで)社会人に求められる対人能力は、小学校からの学校教育のなかで学んできているのです。しかし、人には得意・不得意があります。ある人は、学校で習ったことをしっかりと身に着け授業以外でも実践しています。学校で習う前から家庭や友達集団のなかで自然に身に着けている人も中にはもいるでしょう。しかし、別の人は学校で教わる前には全く分かっておらず、習っても以後の生活に生かせないかもしれません。私も、この対人センスのなかった人たちの一人です。
そして、中学校・高校・大学と進むにつれて、学ぶ必要のある対人能力は高度になります。そのことは、もしある段階で対人能力を学び損ねると、周囲の人たちとの能力差が生まれてしまい、能力を身に着けることが難しくなることを意味するのではないでしょうか。特に、幼い段階では、対人能力の不足している人が能力を学習することをサポートする力を周りの人たちがもっていないために(これも対人能力の一つかもしれません)、より困難だと思います。
対人能力を今から学ぶには
では、(私のように)対人センスが不足していて、対人能力がうまく身につかなかった人は、どうやって埋め合わせをすればよいのでしょうか。一つは、対人スキルに関する本を読むことです。自分の主張・要求ばかりをしてしまい、ほかの人々との折り合いが付けれれない人は、アサーティブ・コミュニケーション(ただしい主張のしかた)の本を読むと学ぶことが大きいかもしれません。もう一つは、今までの授業でどのようなことを習ったか、周りの人はどう行動していたかを思い出してみることです。会議での発言が苦手だったら、今までの学校教育の中でどうしていたかを思い出してみるといいでしょう。あるいは、中学高校の部活や大学のサークルでの会議を参考にしてみるのも一つの方法なのではないでしょうか。もちろん、過去に学習した方法がそのまま使えるとは限りませんが、現在の環境に適応した方法を考えるのに役立つと思います。
学校教育って結局、企業就職をはじめとして、社会で集団行動のできる人間を育成すること目的としているのね。
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